人権トッピクス

地球のイラスト ハンセン病と人権

〜全国の療養所に約5500人いた入居者、
          廃止4年後社会復帰できたのは13人〜


ハンセン病基礎知識 本のイラスト 人物イラスト
 ハンセン病とは、1873年にノルウェーのハンセンが発見したらい菌によって、 主に皮膚や抹梢神経が侵される感染症の一つです。この菌の毒力はごく弱く、感染しても発病することはきわめてまれであり、 1943年のプロミンに始まる化学療法剤の効果によって、確実に治癒するようになりました。現在では、いくつかの薬剤を組み合せた多剤併用療法(multidrug therapy、略してMDT)が広く行われています。

 化学療法がなかったころは、この病気はらいあるいはらい病といわれ、不治の病と考えられていた一方、顔面や手足などの後遺症がときには目立つことから、 恐ろしい伝染病のように受け止められてきました。そのために、わが国はらい予防法によって、すべての患者を終生療養所に隔離するという厳しい対策を取りました。現存する療養所には、国立13ヵ所、私立2ヵ所の計15ヵ所があり、入所者は5,500名(1997年現在)ほどでした。そのほとんどは、すでに軽快治癒していますが、老齢(1997年現在の平均年齢は71歳)である上に、後遺症による重い身体障害を合併するとか、あるいは長期間社会から隔離されていたなどして、復帰の可能性はないといってよい状況です。

 ところで世界のハンセン病患者は、発展途上国においてなお数百万人ともいわれていますが、わが国にかぎっては年間に10名以下しか発生していません。 このように、わが国からハンセン病患者が激減したのは、患者の隔離が効を奏したというよりも、社会の生活環境や個人の栄養状態などが著しく向上した結果です。 ゆえに、隔離を定めた「らい予防法」は、まったく無用な法律として1996年4月に廃止されました。

 これからのハンセン病は、一般の医療機関において治療されることになり、ふつうの病気として扱われます。それでも、 古くからのハンセン病に対する誤った考え(偏見)が、社会からまったく消えたわけではないので、 次の新しい時代を担う若い人たちには正しい知識を早急に広めるよう努めなくてはなりません。 

        ペンイラスト    「らい予防法」とその内容
1996年4月1日に廃止された「らい予防法」の起源は、 1907年制定の「癩予防ニ関スル件」(明治40年法律第11号)にあります。この法律をうけて1909年、全国を五地域にわけ、 各地域に一つずつ道府県連合立の公立療養所が設けられ、放浪する患者の収容が開始されました。そしてこの法律が改正を重ねながらも、 日本におけるハンセン病対策の法的根拠になっていきました。
1916年
1930年
1931年
1938年



予防法の施行細則改正、療養所長に懲戒検束権付与される
岡山県に国立長島愛生園開園(初めての国立療養所)
「癩予防法」改正 全患者を強制隔離の対象とする
国立ハンセン病療養所・栗生楽泉園に「特別病室」と称する患者監禁施設がつくられる全国から療養所に反抗的とみなされた患者が送りこまれ、 47年の廃止までに22名が餓死、凍死、衰弱死、自殺においこまれた
鳩イラスト
1953年制定の 「らい予防法」の法律は、第1章総則、第2章予防、第3章国立療養所、第4章福祉、第5章費用、第6章雑則の計28条からなっています。 とくに問題とされているのは、第6条の「国立療養所への入所」です。ハンセン病の疑いがかけられた人は、 都道府県の定める指定医の診断をうけなくてはなりません。拒否しても最終的には強制的に入所させることになります。 次は15条の「外出の制限」です。家族の危篤、葬儀、り災、本人が法にふれることをおこない、 裁判などのため出頭せねばならない以外は一度入所した患者は生涯療養所から外出することは認められません。 その他、広範囲の就業規則、患者の出た家の消毒など、強力な感染を念頭においた条項が続きます 。しかしなによりも人権上最大の問題とされたのは、一貫して退所規定がないということです。 すなわち、ハンセン病にかかれば出口のない療養所へ送りこまれ、一生そこで過ごさねばならないのです。 これは、この法律が、ハンセン病の予防を目的としたものでなく、療養所という名の収容所に送りこみ、 患者の撲滅させることにより社会を救う(社会防衛崘)ことを第一の目的とした法律だったからです

なぜ、「癩(らい)」とよばず「ハンセン病」とよぶようになったのか? 流れのイラスト
 「癩(らい)」とよばず、「ハンセン病」とよぶのは、たんに言葉のいいかえということではありません。 近代になって「癩(らい)」という語には「不治の病」というイメージがまとわりつき、さらに隔離政策がとられたりしたため、 「癩(らい)」という語には恐怖感も加えられてしまいました。けっして「癩(らい)」という語そのものが差別的なのではありません。 「癩(らい)」にたいする誤った認識が、この言葉に患者への恐怖感をうえつけ、排除と差別のための用語となってしまったのです。
 

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